Q&A2 遺言の効用

 法律によって遺産の分配法は決められているのにあえて遺言を遺す必要があるのでしょうか。

 こんな人が必要です

 近年、公正証書による遺言作成者は年間50,000人強にものぼっています。十年前に比べるとおよそ2倍、今後も記録更新は間違いありません。特にサラリーマンにも「遺言」を書く人が増えていることも注目されます。

 バブル期の地価高騰による、にわか資産家の増加、核家族による親子兄弟のキズナが希薄になったことなど、世相の変化が、その背景にあるようです。かつては一部の大金持ちしか縁がなかった遺言ですが、今では一般の家庭にも、その必要性がいわれるようになりました。

 遺産相続について争いがおこると、往々にして骨肉の争いとなり、血のつながった者同士が醜いののしり合いをするような事態になりがちです。家庭裁判所に持ち込まれる遺産相続をめぐるトラブルには、ほとんどが正式な遺言書がないことが原因となっているようです。死後にトラブルの種をまかないためにも遺言書をきちんと書いておくことをお勧めします。ほら、立つ鳥跡を濁さず、というではありませんか。

 「遺言などなくても、法律でちゃんと分配してくれるのだからそれでいいではないか。へたに遺言書などつくってはかえって迷惑する人が出るかもしれない」こういうまっとうな意見も出るでしょう。たしかに、法律によって遺産の分配法は決められています。が、例えば次のような場合は、たいへんなことになると思いませんか。

 下町のクリーニング屋さんのご主人が亡くなりました。交通事故による突然の死。遺言書などありません。子供もなく、ご主人には兄弟もいなかったので、ご主人の故郷にいる両親と奥さんが相続人です。法律によって奥さんには三分の二、ご両親には三分の一と決められています。ここまではよいのですが、実際に相続をするとなるとどうなりますか。ご主人の財産は、奥さんと二人で営々と築きあげた店と土地だけ。故郷の両親は、もともとご主人との結婚に反対で、義絶しているような状態でしたから、すぐに遺言分割を請求してきました。奥さんは泣く泣く店をたたむことに……。

  ご主人もこんなことになろうとは思わなかったのでしょう。遺言書はぜひとも必要です。特に次のような人は遺言書をつくっておいていただきたいと思います。

 @子供のいない人…ご主人の兄弟姉妹がいても、全額を遺言によって奥さんに残すことができます。

 Aいわゆる「内縁の妻」のいる人…正式に婚姻届を提出していないと相続権が認められませんが、遺言があれば相続できます。

 B亡くなった息子さんの奥さんに世話になっている人…先立たれた息子さんの奥さんには相続権がありません。格別に世話になって、ぜひ相続させたいときには、その旨を遺言に書いておくことです。

 C相続人がいない人…天涯孤独の人の遺産はほおっておくと国のものになってしまいます。遺贈したい人があれば遺言書が必要です。

 D自営業や農業の人…先のクリーニング屋さんの例でおわかりでしょう。相続人が多い場合には特に必要です。

 E遺産を社会のために役立てたい人…公共機関への寄付など考えている人は、遺言書にその旨を明記しておくことが必要です。

 F不肖の息子に遺産を相続させたくない人…なかには「親泣かせ」のお子さんをお持ちで、その子には相続させたくない、という人もいるでしょう。遺言でこれを実行できます。

 最後の項目については、少しくわしく説明が必要です。仮に二男に相続させたくないとき、「二男の太郎を相続人としない」という遺言は認められません。相続人は法律で決められていますから、これを遺言で取り消すことはできないのです。

 「財産は妻と長男に与える」という遺言はどうでしょうか。こういう遺言はできますが、それにしても二男に遺留分まで無効とすることは不可能です。遺留分とは、相続財産のうち、被相続人の意志にかかわりなく、相続人に残されなければならない分のことで、その割合は法律で定められています。したがって、遺言に書いただけでは、この二男は相続ゼロにはなりません。

 どうしても「一銭たりとも相続させない」ということであれば、家庭裁判所に、「推定相続人廃除」を申し立てる方法が残されています。これは民法八九二条の規定に根拠があります。「遺留分を有する推定相続人が、被相続人に対して虐待をし、もしくは、これに重大な侮辱を加えたとき、または、推定相続人に、その他の著しい非行があったときは、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求できる」。

 この廃除の意志表示は、遺言でもできます。家庭裁判所で申し立てが認められればその推定相続人は、相続人の資格を失うことになります。